インジウム燐は、常温で安定した閃亜鉛鉱型の結晶構造をとる、インジウム(In)とリン(P)の化合物で、金属光沢のある青灰色をしています。III-V族の化合物半導体で、一般的な半導体材料であるシリコン(Si)にくらべて電子移動度が高く、バンドギャップが広いため、高い動作周波数を有しています。半導体業界ではインジウム燐(InP)と呼ばれることが多いですが、元素名はリン化インジウムです。
化学式 | InP |
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結晶構造 | 閃亜鉛鉱型 |
融点 | 1062 ℃ |
電子移動度 | 5,400 cm2/Vs |
バンドギャップ | 1.35 eV |
インジウム燐(InP)は代表的な半導体素材のシリコン(Si)にくらべ電子移動度が4倍速く、高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)の基板として用いられます。またインジウム燐(InP)は直接遷移型の半導体であり、赤外発光デバイスの基板にも使用されます。
インジウム燐(InP)は単結晶基板上に、インジウム燐(InP)と格子整合する(格子定数が同じとなる)材料の薄膜をエピタキシャル成長することができます。ガリウム砒素(ヒ化ガリウム、GaAs)やガリウム燐(リン化ガリウム、GaP)と比べて格子定数が大きいため、たとえばヒ化インジウムガリウム(InGaAs)、インジウムガリウムヒ素リン(InGaAsP)といった材料をインジウム燐(InP)基板上にエピタキシャル成長します。
インジウム燐(InP)の単結晶基板はLEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法と呼ばれる液体封止による引き上げ成長法などで製造されます。インジウム燐(InP)は、ガリウム砒素(ヒ化ガリウム、GaAs)と比較して結晶の熱伝導率が低いため温度制御が難しく、高品質な単結晶成長が難しい傾向にあります。
インジウム燐(InP)は直接遷移型の半導体であり、インジウム燐(InP)の上に成長させたエピタキシャル基板とあわせて、半導体レーザー、受光素子、光通信機器のモジュールなどに採用されています。
高周波デバイスとして90GHz以上のミリ波帯で発振するデバイスに、インジウム燐(InP)の半導体が活用されています。
インジウム燐(InP)の薄化加工や個片化加工にディスコのダイシングソー(砥石による切削加工機)、グラインダ(砥石による研削加工機)、ポリッシャ(研磨パッドによる湿式研磨加工)、レーザソー(レーザーによる切削加工機)が用いられています。