ガリウム砒素は、常温で安定した閃亜鉛鋼型の結晶構造をとる弱毒性のヒ素化合物で、自然界にはない物質を人工的に作って実用化した、初めての半導体です。組成に毒性のあるヒ素を含み、発ガン性が指摘されているため、廃棄には適切な処理が求められます。加工では酸や水蒸気、熱による酸化でアルシンが生成されるため注意が必要となります。一般的な半導体材料であるシリコンよりも電子移動度が高く、高速通信用の基板材料としてスマートフォンなどモバイル機器に多く搭載されており、またガリウム砒素は直接遷移型の半導体であるため、赤外光の発光ダイオードにも用いられています。顔認証システムとして期待されるVCSELの基板としても大きく注目を集めている材料です。なお、ガリウム砒素と呼ぶのは主に半導体業界のみで、化合物名としてはヒ化ガリウムが正式です。
化学式 | GaAs |
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結晶構造 | 閃亜鉛鉱型 |
融点 | 1238℃ |
電子移動度 | 8,500 cm2/(Vs) |
バンドギャップ | 1.43eV (300K) |
ガリウム砒素は代表的な半導体素材のシリコンに比べ電子移動度が5~6倍速く、抵抗率も高いため高速動作が可能で、消費電力の少ない半導体素子の材料として知られています。またガリウム砒素は、電子とホールが運動量の変化無しに再結合できる直接変位型の半導体材料に適しています。
ガリウム砒素の単結晶は主にシリコンと同じLEC法(液体封止チョクラスキ法)で製造されます。基本的には通常の引き上げ法ですが、ヒ素の蒸発を抑えるために、酸化ホウ素でGaAs融液表面を覆って加圧した状態で引き上げが行われます。LEC法は大口径の成長には適していますが、転移が入りやすいという特徴があります。転移密度の低い結晶にはHB法(水平ブリッジマン法)が用いられますが、大口径が作りにくい傾向があります。
ガリウム砒素はその電子移動度の速さから高速演算処理が可能で、スマートフォンや基地局などの高周波デバイスとして使われています。また直接遷移型の半導体であることから赤色・赤外光の発光ダイオードに広く適用されており、半導体レーザーにも用いられています。
近年では顔認証システムや自動車の運転支援向けに期待されているVCSEL(面発光レーザー)の基板として、需要が大きく伸びています。
ガリウム砒素の薄化加工や個片化加工にディスコのダイシングソー(砥石による切削加工機)、グラインダ(砥石による研削加工機)、レーザソー(レーザーによる切削加工機)が用いられています。